(3)

「ねえ、事件の詳しい内容ってわかる?」
「わかると思うよ。そうだね、友達の子供のことだもんね。」

 安堂はすぐに察してくれたようだった。
「お願い調べて。私ももう一度あの辺り行ってみるから。」

「あのね。くーちゃん、私の席の隣の子、文也くんっていうんだって。」
久美は不思議そうに比奈子の顔をみる。下校の時間はとっくに過ぎている。
「比奈ちゃん、比奈ちゃんの席の隣って誰もいないよ。
それに男の子がいるのおかしいじゃない?ここ女の子しか入れないもの。
もう、遅いから帰ろう・・・。お母さんが心配してるよ。」
比奈子は応える。

「くーちゃんは見えないの?文也くん、すごいいい子だよ。
この前もね、百科事典見せてくれたの。私、宿題、忘れてきてて。
そうしたらね、その百科事典に答えが載っていて。」
比奈子の机の上には確かに立派な百科事典が乗っていた。
「あれって、先生のだよ。
あんな立派な事典、普通持ってないよ。それにすごく古いじゃない・・・」

 久美の言うことなんて耳に入らない。比奈子は「文也」という少年に興味津々である。
仕方なく、久美は最近の比奈子に対する「心配」を言葉にした。

「ね、学校の七不思議って知ってる?
そのひとつに学校にいるはずのない男の子が現れるというのがあって、
比奈ちゃん、きっとその子に会ったんじゃない?」
比奈子はきょとんとして、
「くーちゃん、文也くんはちゃんといるよ。七不思議じゃないよ。」
「・・・でね、その七不思議で男の子に会ったら、ね。」
久美が続けると
「どうなるっていうの!」
比奈子が興奮していう。
「・・・よくわかんないけど、消えちゃうんだよ。」
「誰が?」
「その子に会った子が・・・」
「久美ちゃんのうそつき!」

 暗くなった校舎の中を比奈子が駆けていく。教室に向かって。
今日に限って帰りたがらない比奈子をようやくの思いで玄関まで連れてきたのだ。
久美はほとほと参った顔をした。振り返ると暗闇の中に比奈子の姿はない。
「もう、知らない。比奈ちゃんなんて、いなくなったって知らない!」

                    ★ ★ ★

 誰もいない学校に電話のベルが鳴り響く。
用務員の小島が出る。
「はい。こちら和光学園ですが。え?生徒さんがまだお戻りになられないと。はい、はい・・・。
わかりました。学校内も探してみます。」

 河見からの電話だった。比奈子がまだ戻らないとの。
小島は独り言を呟きながら、見回りをする。
「あの時以来だな。まあ、いなくなったにしてもいずれ出てくるだろうが。
ほんとにどこに隠れているものか・・・。お稲荷様の祟り・・・なのか。

 明日は新嘗祭だ。早くお供物を奉げなければ、本当にいなくなってしまうかもしれない。」
そう広い学校でもない。校舎は1学年3クラスで6学年まで18クラス程度だから、すぐに見終わる。視聴覚教室も調理室も音楽室も・・・誰もいない。
「やはり。いなかったか。校庭は広すぎる。今は探せないな。
警察には頼まないでくれ、というし。さて、明日にするか。」

 小島はのんきな方だった。そして、河見からの電話も一度きりに終わった。
「さて、学校のものは誰も信じない。どうしたものか。」
一度は明日にする、と思ったものの、段々不安になってきた。
「とりあえず、学長室だけもう一度いってみよう・・・」

                    ★ ★ ★

 

( by R)