【卯 月】
〇満月: 4月 8日12時22分 (旧3/15)
『満 月』
・・・奈良県天川村からのエッセーです。
それはあたかも・・・月の満つるさまに併せたかのようにこころも潤いに満たされる・・・。
平成13年4月8日。いつものように花祭りが行われた。 朝各家々に放送が流れる・・・。 「本日は花祭りです。薬師堂の前にて午後一時より法要が行われます。
皆さま、お集まりください。尚、そのあと、一行は来迎院に向います・・・」
天川のお薬師さまは鎌倉時代に作られたという。しかしながら、その保存状態はとても美しく、金色に光り輝いている。見るごとに表情を変え、座している。
頭上に「薬師如来」を示す凡字が書かれた、細工の見事な宝冠をかかげ、まるで大日如来のように座している。個人の家の庭にあるので「外」から来た人はあまり知らない。
来迎院というのは天河大弁才天社の斜向かいに位置している。夫婦の古代銀杏がすぐそばに聳え加護する中にある。その建てられた年代は知らない・・・。
来迎院の中には大日如来を中心に、左側に千手観音、右側に不動明王,他、空海像など幾つかの仏像の類が納められている。こちらは痛みが激しい。
建物自体の痛みも相当激しくこの4月15日には取壊すという。 また、「風景」が変わってしまう。淋しい。 静かに静かに夜はふけていく。桜がいくつかの蕾を開き始めた。
このあたりでもっとも爽やかな季節が訪れた。新緑が華やき始めた。
薄墨の桜はいまだ開かない。枝の穂に力をしたためて、時を待っている。 天川の小夜は桜のざわめきとともに妖しく彩られ、街燈のない暗い道に一筋の明かりを落とした。人は光に誘われ、魅了され、心奪われた。何とも形容しがたい「今」しかない、
特別な機会が与えられる。 人は顔を空にむけた。息を飲み込んだ。ふと、息を漏らした。言葉にならない言葉を漏らした。なにもいらない。ただ、ここにいられれば、とそう思いながら。
山の方に動物の掛け合いが起こり、沈黙が壊される。「掛け合い」はどんどん山の奥へと響きを遠のかせていく。「ギギーッ。ギギーッ・・・」と。なにかはわからない。
人は「"ムジナ"かもしれない。そんな夜だ・・・」と思う。 山の中に光を見出し、妖しの世界に足を踏み入れる。 そこには現代もなく、過去もなく、未来もない、妙な感覚で時の川が音を奏でる。
さらさら、と。さらさらと。 そして、人は月に身を任す。 瑞々しい力が静脈を巡り、漲り、活力を与える。
( by R)
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