【2003年 睦 月(一月)】 満月

『熊野の朱い月』

血の記憶が目覚め、“死と再生”がはじまる




あれは7年前の冬のこと・・・。
熊野本宮を訪れ、この上ない幸福を感じた。
本宮の斎庭に足を踏み入れた途端にそれは身体を包み込んだ。
温かな、渦を描くように流れる水のような空気。
足元に拡がる円、円、円・・・
水泡。
まるで水遊びをするようにしゃがみ込む。
足元に流れる幾多の流れを汲み上げる。
誰にも見えない「流れ」。
いとおしさで離れられない。
そこから離れられない。

なにが是ほどまでにいとおしく感じられるのか?

ふと声を耳にする。
遠く風が運んでくる声。
川上から運ばれてくる声、声、声。
脳にこだまする。
「今宵1時ニ・・・」

その日は満月だった。
何故1時なのか?
訪れると門が開いていた。
「声」に誘われるまま、左社殿にかしづく。
ライトが照らされている。
そこに真っ赤な神が真っ暗な中に座っていた。

久しぶりに熊野を訪れる。
誘われるように。
左社殿の前にかしづく。
真っ赤な神は「死と再生」を促している。
これから「死」が訪れ、
そのあとに大変な思いをして人々は
「再生」するだろう・・・

わたしの中の月の道はまだ続いている
いつ止むのか検討もつかなかった・・・
神が血を欲している。
それだけは確かだった・・

(by R)

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